Inkscapeには、4種類のパスのオフセットコマンドが用意されています。 『オフセット』とは相対的な距離などを示す言葉ですが、Inkscapeのオフセットコマンドも同様の意味であり、パスの線を相対的に移動させることができます。
それぞれの線が移動する方向は、それぞれの線の内側または外側の垂直方向です。 つまり、結果として領域が拡大または縮小されます。 わかりやすく言えば、領域を広げる・狭める機能です。 図形を太くする・細くする、とも言えるでしょうか。
オフセットコマンドには、領域を一定量広げるアウトセットと一定量狭めるインセット、変化量をオフセットハンドルで調整できるダイナミックオフセットとリンクオフセットの4種類があります。 リンクオフセットはダイナミックオフセットと似ていますが、クローンとしてコピーされるという点が異なります(詳細は後述します)。
なお、シェイプやテキストにもオフセットコマンドを適用できます。 オフセットコマンドによっては、強制的にシェイプやテキストからパスに自動的に変換される場合もあります。
では、パスのオフセットコマンドを使ってみましょう。 何でもいいので図形を準備します。
上図のように赤色の楕円と緑色の星形のシェイプを準備してみました。
では、まずは赤色の楕円からオフセットコマンドを使ってみましょう。 オフセットコマンドを使うには対象のオブジェクトを選択しておく必要があります。
上図のように赤色の楕円を選択します。 今回は選択ツールで選択しています。 では、選択中の楕円をアウトセットのオフセットコマンドで広げてみましょう。
上図のように画面上部のプルダウンメニューの"パス(P)" -> "アウトセット(E)"を実行します(またはキーボードのCTRL + )を押します)。
上図のように赤色の楕円の領域が広がります。
では、さらに再度アウトセットを実行してみましょう。
上図のように画面上部のプルダウンメニューの"パス(P)" -> "アウトセット(E)"を実行します(またはキーボードのCTRL + )を押します)。
上図のように赤色の楕円の領域がさらに広がります。 このように、アウトセットのオフセットコマンドは実行するたびに領域が広がります。
では次に、領域を狭めるインセットのオフセットコマンドを実行してみましょう。
上図のように画面上部のプルダウンメニューの"パス(P)" -> "インセット(N)"を実行します(またはキーボードのCTRL + (を押します)。
上図のように赤色の楕円の領域が少しだけ狭まります。 なお、インセットも繰り返し実行することで領域がどんどんと狭まります。
アウトセットもインセットも実行前のパスの形状は失われます。 領域が広がったり狭まったりした後の形状のみ記憶されており、以前の形状は残されていません。
では次に、ダイナミックオフセットについて説明します。 ダイナミックオフセットでは、変化量をオフセットハンドルで調整することができます。
またダイナミックオフセットでは、元のパスの形状が保持されるため拡大・縮小を繰り返しても劣化することがありません。 どれだけ領域を広げようが狭めようが形状が崩れることはありません。 ただし、ダイナミックオフセットの実行後は元のパスは変更することができなくなります。
では、ダイナミックオフセットを実行してみましょう。
上図のように画面上部のプルダウンメニューの"パス(P)" -> "ダイナミックオフセット(Y)"を実行します(またはキーボードのCTRL + Jを押します)。
上図のように拡大縮小ハンドルが消えました。 理由は、選択ツールからノードツールに自動的に切り替わったためです。
ダイナミックオフセットでは変化量をオフセットハンドルで調整することができますが、調整はノードツールで行います。
上図のように画面左部にあるツールボックスのノードツールが選択されています。 このように、ダイナミックオフセットを実行すると自動的にノードツールに切り替わります。
さらに赤色の楕円にも注目してください。
上図のようにオフセットハンドルが表示されています。 また重要な点として、ノードツールを選択しているにも関わらずノードが表示されていないことがわかります。 ノードが表示されていないのは、このパスは形状が編集できないからです。
ダイナミックオフセットを適用されたパスは、オフセットハンドルでオフセット量を調整することしかできません。 これは、仕様によるものです。
では、ダイナミックオフセットの説明を続けます。
オフセットハンドルを操作して領域を広げてみましょう。
オフセットハンドルをマウスの左ボタン()で上方にドラッグします。
上図のようにオフセットハンドルをドラッグします。 赤色の矢印はドラッグの動きを表しています。
上図のように赤色の楕円の領域がドラッグ量に応じて広がります。 このように、オフセット量を調整することができます。
では続いて、オフセットハンドルを操作して領域を狭めてみましょう。
オフセットハンドルをマウスの左ボタン()で下方にドラッグします。
上図のようにオフセットハンドルをドラッグします。 赤色の矢印はドラッグの動きを表しています。
上図のように赤色の楕円の領域がドラッグ量に応じて狭まりました。 このように、領域を広げるのも狭めるのも自由自在です。
なお、ダイナミックオフセットでは、元のパスの形状が保持されています。 そのため、どれだけ領域を広げたり狭めたりしても形状は崩れません。 元のパスの形状から都度計算されるためです。 ただし、その代償として、オフセット量以外の形状の編集はできません。
ではここで、赤色の楕円の形状を編集できるようにしてみます。 『ダイナミックオフセットが適用されたパスはオフセット量以外の形状の編集はできない』と説明したばかりですが、実は形状を編集できる手段はあります。 ダイナミックオフセットの適用を解除すればいいのです。
現状、赤色の楕円は小さく描かれていますが、元の大きさの形状の情報は保持しています。 オフセットハンドルで領域が狭められているため、オフセット量が適用されて小さく描かれているだけなのです。
ダイナミックオフセットの適用を解除することで、表示上の楕円の形状を保持したパスに変換されます。 そしてオフセット量などの情報は消えてなくなります。
では、ダイナミックオフセットの適用を解除して新たなパスに変換しましょう。
上図のように画面上部のプルダウンメニューの"パス(P)" -> "オブジェクトをパスへ(O)"を実行します(またはキーボードのSHIFT + CTRL + Cを押します)。
上図のように赤色の楕円にノードが表示されます。 これは、赤色の楕円がパスに変換されたためです。 この楕円はオフセット量に従って表示上狭められているわけではなく、これが本来の形状です。
長くなりましたので、この辺で一区切りします。 続きは次の記事を参照ください。
Inkscapeには、4種類のパスのオフセットコマンドが用意されており、領域を拡大または縮小することができます。 図形を太くする・細くする、とも言えるでしょうか。